「何か新しい甘味を作ってくれへんか」と祇園の旦那衆に頼まれ、昭和の初めに誕生したのが、名物のくずきりです。他のお菓子同様配達だけでしたが、この味が評判になり「ちょっと食べさせて」とお店の横で供されるようになり、戦後、喫茶室をつくりました。配達しやすいようにと考えられた容器は、配達の習慣がなくなった現在も当時のままです。十二代主人は木工芸の人間国宝・黒田辰秋と懇意にしていて、黒田に制作を依頼した豪華な螺鈿のくずきり用器も使っていました。
くずきりは吉野本葛粉と水だけで作ります。黒蜜は沖縄の波照間産の黒糖を原料にしています。もちっとコシのあるくずきりがコクのある黒蜜に絡み、つるつると入ってきます。後口のさっぱりした蜜は飲み干す人も多いとか。「宿酔(二日酔い)の朝に良い」と言ったのは作家の水上勉。他にも多くの文人墨客に愛されてきました。くずきりは手打ち蕎麦同様すぐに食べないと白くなりコシもなくなります。お店では注文が入ってから葛粉と水を合わせて作りますが、出来立ては透明でまさに清流のよう。目にも口にも涼やかです。