雑誌の再開発が電子書籍を示す場合もあるが、本当の意味で「雑誌の体験性」を再現しているのは、このiQONのような「イメージによる発見」を実現しているサービスだと思う。そしてさらにスマートフォンというモバイル環境の制約も大いに考慮すべきだろう。文字よりもタッチするだけでイメージと出会える世界観の方が圧倒的に有利だからだ。
ここから導線を貼った店舗では月間で2000万円を売り上げた店も出てきているというから、おそらくここでの偶然の出会いはより雑誌のそれに近づいているのだろう。しかも雑誌をみて、店舗に足を運んで、というのではない。その場で買ってしまうのだ。文字で検索して価格を比較して、店舗で手にとってネットで買う。そんな導線設計もよく語られていたが、ここの流れはそうではない。きわめて直感的な動き方だ。
そういう視点で周りを見渡すと、文字で検索できない商品はごまんとある。ファッションだけでない、イメージからものを見つけて(イメージ検索ではない)自分の趣味にあった物との出会いを作り出す。ここには大きなビジネスチャンスがまだまだ潜んでいると思っていいだろう。
※1:※2012年度実績 出店店舗数 約39,000店舗
※2:導入店舗数3万6,800店舗。国内主要ショッピングカートASPサービス中首位。(2012年3月末時点「主要ショッピングカート利用状況調査」)
※1 :※ 2012 actual store number of stores opened: Approximately 39,000 stores
※2 It is introduced in 36,800 stores. The first place among the domestic main shopping cart ASP services. ("Main shopping cart use situation study" as of end of March, 2012)
BASEが売っているものは商品ではなく「体験」
現在、楽天に出店している店舗数は約3万9000店舗(※1)、ショッピングカート大手のカラーミーショップを導入している店舗は3万6800店舗(※2)だという。前述の通り、昨年11月末に立上がったBASEは1万5000店舗にまで伸びている。しかしこの比較は正しいだろうか。
BASEというサービスをどうみるか、色んな意見があって面白い。安い(というかタダなんだけど)ショッピングカートという人もいるし、ホームページ作成サービスの亜流のような捉え方、Gumroadのようなコンテンツ指向もあるし、Etsyのようなマーケットプレースかもという話もある。
出典:(株)日本流通産業新聞社「日本ネット経済新聞2012年5月24日号」/カラーミーショップサイトより
私はTumblrに近いと思っている。楽天やショッピングカートとの比較に違和感はあるけど、Tumblrのようなプラットフォームと比較すればあまりおかしく感じない。なぜか。彼らが作っているのがショッピングページというよりはコンテンツに近いからだ。彼らは同じくポータルを持たない。
以前私はこのような記事を書いた。彼らに近しい友人が「エビストラップ」や「自画像」を販売している。ひとつは手渡しで、ひとつは売ってるにも関わらず、ダウンロードが可能だった。真面目に文章で書くのもアレだが、このことに関連して家入氏が「モノというネタを通じてコミュニケーションを楽しんでいる」と話していたのが印象的だった。
彼らはポータルを持っていないので、BASEで売っている商品を探すことは出来ない。探す必要がないからだ。全く文脈を知らない人がいきなり似顔絵を出されても訳が分からないし、購入なんてしないだろう。あくまで購入という行為は販売者と近い関係にある人から広がった「輪」に存在する。
そうやって小さい輪から口コミで広がり、例えばこの「自分の名前を入れた和歌を作ってくれる」ショップは数十件の注文が入って現在注文を止めているそうだし、「月間で数百万を売上げるショップも出てきている」(鶴岡氏)という結果につながっている。
友人のTumblrを眺めているとたまに感動的なモノに出会うことがある。コメントをしたりリブログしたりリアクションする。BASEはこの体験の上に「買える」というアクションが追加されたものではないだろうか。
ーーーこれらのサービスは文字で商品を検索させ、値段という数字で比較をさせない。イメージを駆使し、自分の価値観を人に勧める。モノによるコミュニケーション、買ったことへの話題づくりという体験を付加価値にビジネスしようとしている。このような「メディア化するEC」サービスはこれからも出てくるのではないだろうか。