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【連載第2弾】『起業家はどこで選択を誤るのか』の出版翻訳の裏側に迫る

『起業家はどこで選択を誤るのか』の翻訳を行った小川さんが出版翻訳の裏側を語る第2回目です。
第1回はコチラ

2. 下訳からWORD校正

私は翻訳の専門家ではありません。なので、英語から日本語への翻訳をゼロから行うのは時間的にも品質的にも現実的ではないです。そのことは出版社の方もよくご存知でしたので、まず英語から日本語に訳していただく下訳の方をお願いしました。

じゃあ、その人が全部訳せば私は要らないのでは?と思いませんでしたか。あるいは、私が翻訳したのではなく、下訳の方が翻訳したのでは?と。その疑問に答えるためにも私がどんなことを考え、翻訳作業をしていったかを書こうと思います。

WORD校正という聞き慣れない言葉を書きました。おそらく一般用語ではないと思います。私は翻訳作業はすべて電子ファイルでやっていくのだと思いこんでいたのですが、実は、初校以降は紙にペンで修正をしていくという作業でした。その理由には次回触れようと思いますが、ともかく初校以降は紙なので、電子ファイルで作業を行うのは、下訳があがってきて初校にする前のタイミングだけなのです。下訳があるので、その修正を「校正」と呼び、修正履歴の残しやすいWORDで作業するので、WORD校正と呼んでいます。

実際にやった作業は、ほぼ文単位に、
1)下訳を読む
2)原文を読む
3)もういちど下訳を読む
4)修正する
ということの繰り返しです。3の時点で違和感がなければスルー。ひっかかりがあれば、何がおかしいのかを考えて修正をしていきます。その際に、特に注意を向けていたことは大きく3つ。1つ目は、単語の訳が不自然でないか、統一感があるかということ。2つ目は、文単位で見たときに誤訳がないか、3つ目は文が冗長ではないか、ということでした。それぞれ見てみましょう。

■単語の訳が不自然でないか


分かりやすいところだと、法律用語やビジネス用語、統計用語などの定訳があるような単語です。もちろん定訳がない場合も多いですが、なぜその単語をそう訳したのかということに、ある程度、理由がつけられた方が望ましいと思います。

たとえば、”equity”という単語。これは使っていたロングマン英和辞典だと、「株式」や「純資産額」となっています。しかし「株式」と訳してしまうと “equity split” とかは「株式分割」となりますが、実は日本語でよく使われる「株式分割」とは意味が違います。また、この単語は全編を通してのキータームでもあるため、結局「エクイティ」とカタカナで統一してしまいました(詳しくは訳注として書きましたので書籍をご覧下さい)。

また、英語特有の言い換えの多用への対処もあります。明らかに同じ意味のことを指しているのですが、表現を変えるという英語の癖です。たとえば、”make the leap”や”found a startup”、”become a founder”など、全部「起業する」あるいは「創業する」を言い換えている表現です。直訳すると、「飛躍する」「スタートアップを創業する」「ファウンダーになる」となって、かなり不自然な日本語になってしまいます。それらをどう統一するか、あるいは、統一しないかということを考えながらチェックしていきました。

■文単位で見たときに誤訳がないか


代名詞や関係代名詞が指すものの違いや前置詞、接続詞の適用範囲の解釈の違いで意味が変わってきてしまうという文があります。どうも前後の文と整合性が合わなかったり、唐突感のある一文が入ってたりすると、そういう誤りであることが多いようです。原文自体が曖昧だと翻訳時の解釈の余地も残るので、明確に誤訳だとは言い難いものもあり、そういった文はまさにテーマに関する周辺知識や常識等が問われてくる箇所だといえます。

厳密に言えば誤訳とは言わないかもしれませんが、日本語として不自然というのもあります。特に動詞の場合、単語の訳語が不自然なせいで文がおかしくなったり、英語を後から訳していくことで日本語として読みにくい文章になってしまったりします。

ひとつだけ例を挙げましょう。

"Jobs and Wozniak were best friends first before becoming cofounders; their friendship hindered their ability to avoid conflicts in advance or at least to resolve them before they became unresolvable and the friendship itself became damaged beyond repair. "

この最後の部分、before A and B となっている箇所で、Bをbeforeに入れるかどうかで表現が変わります。つまり、
1) 衝突が解消不能になって、友情そのものが修復不可能なほど損なわれるまえに対処することができなかった。
2) 衝突が解消不能になる前に対処することができなかった。結果、友情そのものが修復不可能なほどのダメージを受けることになった。
の2通りです。

文法的に言うと、もしかしたら1の方が正しいのかもしれません。ただ、ジョブズとウォズニアックが破局を向かえることは周知のことなので、意味的には2でもおかしくないですし、日本語的にはその方が読みやすくなると思います。念のため補足しておきますと、ジョブズとウォズニアックは、アップルの2人のファウンダー、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックのことです。

■文が冗長ではないか


これも英語特有な表現で、主語や所有代名詞を必ず入れるということへの対処があります。正確に訳そうとするといちいち「彼」や「彼女」などの代名詞を入れなければならなくなりますが、日本語はそもそもあまり人称代名詞を使わない、特に三人称の代名詞は使わないことが多いと思います。

また、日本語は分かりきったことは文脈から読み取らせ、英語のようにいちいち書かないという特徴もあります。そのため、厳密に和訳するとかなり冗長で読み難くなってしまいます。とはいえ、省きすぎると不親切な文になってしまうことになります。どこまで省くかというのは、やはり解釈の余地の大きいところだと思います。

これも先の例でみてみましょう。最初の文章です。厳密に訳すと以下のようになります。
1) ジョブズとウォズニアックは、共同ファウンダーになる前にもともと親友同士だったが、その友情によって衝突を避けることもできず・・・

この一文だけが置かれていればこれでも良いかもしれません。あるいは、このあとの文が長いため「親友同士だった」で一度文を切るというのも良いでしょう。しかし、文脈的にジョブズとウォズニアックが共同ファウンダーであることは既に触れられているので、必要ないと解釈できます。つまり、
2) ジョブズとウォズニアックはもともと親友同士だったが、その友情によって衝突を避けることもできず・・・

この方が読みやすいのではないかと思います。

他にも気になることがあればネットで調べたり、引用文などは翻訳書をあたったりして、ひととおり修正をしていきます。実際には、私がひととおり終わった後にもうひとりの担当者が確認を行い、最後に私がそれを反映して、出版プロデューサー(本来、英治出版ではこう呼ばれますが、以下では一般的な表現を使い「編集者」とします)に渡すというプロセスを経ました。
さて、ここまで終わると、次は初校です。

翻訳者 日本語 2014/01/24 09:12:02
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